「タッチでGo!新幹線」エリア拡大を受けて、ミニ新幹線におけるSuicaの懸念点

来年2021年春から,JR東日本のすべての新幹線路線*1が,SuicaなどのICカードのタッチで利用できるようになることが発表されました. 対象となる新幹線の路線には,ミニ新幹線である山形新幹線秋田新幹線も含まれます. 便利になりそうなのですが,ミニ新幹線区間について2つほど懸念点があります.

山形・秋田新幹線は,ほかのフル規格新幹線と比べて,少ない工事により新幹線車両を走行可能にした路線で,「ミニ新幹線」と呼ばれています. 奥羽本線田沢湖線普通列車が走行する線路と同じところを,新幹線車両が走行します.

ミニ新幹線の特徴は駅にも現れており,同じホームに普通列車と新幹線の両方が発着する駅が多いです. 現に,山形,大曲,秋田駅*2以外の駅では,普通列車と新幹線のホームが別れていないようです. このような駅では,共通の改札口で普通列車の旅客と新幹線の旅客の両方の改札を行います.

1. ミニ新幹線区間普通列車を使用する旅客からの特急料金誤収受の可能性

来年春からの「タッチでGo!新幹線」エリア拡大に先行して,すでにJR東日本のすべての新幹線駅の改札口にはICカード対応の改札機が設置されています. 新幹線改札のICカード読み取り部は,今年3月までは「モバイルSuica特急券」の利用者様として,また3月からは「新幹線eチケット」用として使用されています.首都圏の新幹線駅では「タッチでGo!新幹線」用としても使用されており,来年3月からは他エリアでも同じ役割を兼ねると思われます.

さて,この改札機はミニ新幹線区間の駅にも設置されています.この改札機について特筆すべきこととして, (a) 紙の切符の投入口がない(IC専用)ことと, (b) 普通列車の利用客も利用する改札口に設置されていること が挙げられます.写真の田沢湖駅の改札口はこのタイプです.

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田沢湖駅の改札口.普通列車の旅客と新幹線(こまち号)の旅客の両方がここで改札を受ける.この区間普通列車の本数がこまち号に比べて極端に少ないのもあって,発車標には普通列車の発車案内がひとつもない

このような駅の改札口では,次のような運用がなされています.

  • 新幹線にICカードで乗車する旅客は,改札機にタッチする.
  • 新幹線に紙の切符で乗車する旅客は,駅員に改札を受ける.
  • 普通列車に(紙の切符で)乗車する旅客も,駅員に改札を受ける.

さて,ミニ新幹線と同じ線路,奥羽本線田沢湖線普通列車に乗車する旅客は,ICカードのタッチで利用することはできません. これは,奥羽本線*3田沢湖線Suicaの利用可能エリアに含まれていないためです.

しかし,Suicaの利用可能エリア外であるにも関わらず,そのことを知らずにICカードで乗車しようとしてしまう人があとを経ちません. これまで,誤ってICカードを利用しようとした旅客は,乗車駅や下車駅の改札口などで足止めを食らうことになっていました. このことは十分問題なのですが,それでもこの程度の問題でした.

さて本題ですが,「タッチでGo!新幹線」エリア拡大により,奥羽本線田沢湖線で誤ってICカードを利用しようとしてしまった旅客に対し,更なる問題が発生することを懸念しています. それは,ミニ新幹線の停車駅相互間を普通列車で移動する旅客が,乗車駅と降車駅で誤ってICカードをタッチしてしまった場合,運賃だけでなく特急料金までもが,ICカードのチャージ残額から差し引かれてしまうのではないか,というものです.

例えば,奥羽本線米沢駅から赤湯駅まで普通列車で移動する旅客のことを考えます. 米沢駅赤湯駅はどちらも山形新幹線「つばさ」号が停車する駅で,新幹線用の改札口と普通列車用の改札口が共通になっています. 奥羽本線Suicaエリア外であることを知らない旅客は,両駅の改札機にタッチしてしまいます. 両改札機は新幹線用のものですから,その旅客は新幹線に乗車したものとして扱われます. そのため,本来の運賃は 330円 ですが,旅客のICカードからは特急料金 760円 を合わせた 1,090円 までもが引き去られてしまうことになります. 改札機からは足止めされることもありませんから,引き去り金額を気にしなければ,このことに気づかずそのまま駅を去っていってしまいそうです.

この問題に対し,どのような対策がとられるのか気になるところです. ミニ新幹線の構造上,全ての駅で(山形,大曲,秋田駅のように)改札内を分離することは現実的ではなさそうです. 最も現実的そうなのは,改札口に「新幹線に乗車しない方はICカードをタッチしないでください」という旨の案内を掲示することでしょうか. これは確実な対策ではないでしょう.

ここまで書きましたが,この問題は意外と限定的な範囲に収まりそうです. 「タッチでGo!新幹線」を利用するためには,つまり新幹線にICカードのタッチのみで乗車するためには,必ず一度,券売機での利用登録が必要となるためです. 利用登録をしなければ,誤って上述のような区間ICカードをタッチしてしまっても,改札機に足止めされて誤りに気づくでしょう.

2. ミニ新幹線区間普通列車に対するSuica利用可能エリア拡大への障壁

JR東日本は,将来,自社全線をチケットレスで乗車できるようにすることを目指していると聞いたことがあります. この「全線」には奥羽本線田沢湖線も含むのでしょう.

奥羽本線田沢湖線普通列車ICカードのタッチで乗車できるようにする場合,ミニ新幹線の駅の構造が大きな障壁になりそうです. ひとつの改札口の自動改札機で,普通列車の旅客と新幹線の旅客をどのように判別すれば良いのでしょうか?

ひとつ考えられるのは,先日開業した東武鉄道東上本線「みなみ寄居駅」の例にならって,乗車する列車に応じた改札機を並べて設置するというものです. 「新幹線を利用する方は左の改札機に,普通列車を利用する方は右の改札機にタッチしてください」の旨の案内によって旅客に周知させることができれば,とりあえずは実現できそうです. しかし,タッチする改札を誤った場合,運賃・料金の差が東上本線の比にならないくらい発生します. 新幹線に乗車したのに,意図的に普通列車用の改札機にタッチされる不正も考えられます. 不正の対策としては,新幹線列車内での検札を強化するとか,首都圏のSuicaグリーン券システムのようなものを新幹線車内に導入する(新幹線改札を通過した旅客は,車内の座席上のICカード読み取り部にタッチして,ランプを赤から緑に変えるようにする など)とかいったところでしょうか.

いずれにせよ,奥羽本線田沢湖線でのSuica導入についてはまだなんの発表もありませんから,以上の議論は完全な妄想です.

最後に

在来線と新幹線を合わせると,列車の乗車にSuicaのタッチが利用できるエリアは相当広い範囲になりました. 今回紹介した新幹線のIC乗車エリアのほかにも,在来線ではもうSuica首都圏エリアと仙台エリアがくっつきそうです. 紙の乗車券の途中下車の扱いがどうなるのかなど,在来線のほうにも気になるところがたくさんあります. 今後の動向に目が離せません.

*1:大宮,高崎,福島駅でのいわゆる「V字乗継」(直通しない方面同士の乗り継ぎ)と,盛岡駅をまたがった利用は対象外

*2:これに加えて,福島,盛岡駅

*3:山形駅から福島,山寺,鳴子温泉駅以遠の間を利用する場合を除く.この場合,福島,鳴子温泉駅までの区間つばさ号には乗車できません